SNSでの個人情報開示請求の簡略化は恫喝訴訟に使われる恐れはないのか

女子プロレスラーの木村花さんが亡くなった事で、SNSでの誹謗中傷が問題になり

高市早苗総務相は5月26日の記者会見で「匿名で他人を誹謗(ひぼう)中傷する行為は人として卑劣で許しがたい」と述べ、発信者の特定を容易にするための制度改正を「スピード感を持って行う」と述べました。

ネット上の卑劣な行為は断じて許されるものではなく、インターネット(SNS)は、決して匿名ではなく、犯罪的行為があった場合には、容易に個人が特定されることを、一般の人に知らせ

一定の歯止めがかかる対策を行う必要があることは論を待たないところではありますが

安易にSNSなどでの個人情報開示請求を簡略化してしまうと、団体や企業による個人への恫喝訴訟(どうかつそしょう:別名スラップ訴訟)に悪用されてしまう恐れがあり、慎重に制度設計を行う必要があるのではないでしょうか。

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恫喝訴訟(スラップ訴訟)とは

恫喝訴訟(スラップ訴訟)とは団体や、企業など比較的、力のある組織が、自分らへの批判や、反対運動を押さえ込むために

一般の個人などを相手に、勝訴することを目的とせず、相手にダメージを与える目的で名誉毀損などとして高額の賠償金などを請求する裁判を起こすことです。

スラップ訴訟を企業が恫喝に使用し社会問題化しているが違法なのか

SNSなどで、その団体や企業にとって不都合な事実を述べたり批判を行った個人に対して、名誉毀損だとして、訴訟のための個人情報開示請求を行い

たとえ開示されなかったとしても、訴訟を考えているということを知らせるだけでも、充分個人が団体や企業を批判する事への恫喝や威嚇になります。

法務部門などがしっかり設置されている企業などであれば、専門の部署の専門の人員が専属で訴訟に当たれますし、裁判費用にしても団体や企業にしてみればさほど気になる金額ではありません。

一方訴えられた個人の方は、裁判費用や、裁判に関する知識、裁判にあてる時間なども限られ、訴えられた、あるいは訴えられるかもというだけで、相当のダメージを受けます。

かなりの期間、裁判にかかりきりになったり、仕事への支障、費用の工面など、物理的、精神的な苦痛は重大なものになります。

そうなれば、当然、訴訟を頻繁に行うような企業への批判や苦情をSNSなどで発信することはためらわれるようになり、ある種の言論統制が、暗黙の内に行われる事になります。


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SNSやインターネットは匿名ではない

SNSなどは匿名で登録することが可能なものもあり、そのような場で発言することは、完全に匿名で行えると勘違いしている人がいます。

匿名で登録していてもSNS運営会社からの情報やインターネットプロバイダーなどからのIPアドレス情報(パソコンの住所のようなもの)などから、容易に個人を特定することは可能です。

また、知識としてこのことを理解していても、ネット上ではどうしても相手の顔を直接見ることが出来ないことや、表面的には匿名であることからついつい、通常では考えられない、罵倒に近い言葉を書き込んでしまうこともあります。

これに対して、これまでも、殺害予告など犯罪的な行為に対して、警察からの要求に対して情報開示が行われる事は良くあることですし

個人に対する、誹謗中傷に対して、情報が開示されたこともあります。

ただし、個人が情報開示請求を行う場合、現状では裁判を行って開示請求を行う必要がああり、多額の費用と時間がかかることから、実際問題として、よほどのことがない限り、個人が、誹謗中傷している相手を特定することは困難でした。

ですから、SNSなどでの個人への誹謗中傷を防ぐ為の何らかの対策は必要でしょう。

SNSで誹謗中傷を書き込んでいる人

情報開示の簡素化が団体や企業の恫喝訴訟に利用される恐れ

所が、誹謗中傷しているSNS上の、加害者の個人情報を開示する請求を簡単にしてしまうと

今度は先程述べたように、企業などが自社に批判的な人を恫喝する目的で使用されてしまう恐れがあります。

一方的に個人を誹謗中傷する卑劣な行為は断じて防止しなければなりませんが、その一方で、力のある団体や企業による、一般市民への言論弾圧に利用される恐れもあります。

その団体や自社に都合の悪い意見を発言している個人などに対して、裁判を名目に個人情報の開示請求を行ったり、あるいは実際に裁判を行ったりすれば

ほとんどの人は、この程度のことで訴訟を起こされることはあり得ないし、非道な行いだと憤りつつも

触らぬ神にたたり無しで、おかしな事をやっている団体や、企業だと思ってもSNSでの意見や情報発信をためらってしまうことになります。

まとめ

SNSでは自分が透明人間であるかのように錯覚して、一方的に誹謗中傷を行う人がいます。

このような卑劣な行為に対して何らかの対策を行うことは、絶対必要ではあると考えます。

ただし、個人情報の開示請求が容易に出来るようにした結果、団体や企業などが、自己に都合の悪い意見や情報を発信している個人を萎縮させるための威嚇訴訟(スラップ訴訟)などに悪用されないよう留意して制度などを改善する必要があると考えます。

注:SNSなどで誹謗中傷を受けた場合、被害者はプロバイダ責任制限法に基づき、SNSの管理者に発信者情報の開示を求めることができます。ただし多くの場合は裁判で争うことになり、実際問題としては活用が難しい制度になっています。

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