日大アメリカンフットボールの選手が行った危険タックル(ラフプレイ)が大きな事件になりました。
この事件を危機管理(初動対処)の観点から見ていると、対応を間違えていなければ、これほどの大騒ぎにならずに済んだかもしれないのに、大事件となって炎上してしまったのはやはり
危機管理(初動対処)を誤ったからとしか思えません。
なぜ日大は危機管理(初動対処)を間違ったのか
何がまずかったのか
どうすれば良かったのかについて考察してみたいと思います。
注:本記事はあくまで危機管理の観点からどうあるべきだったかの解説をしており、事件の是非や、善悪を評価しているものではありません。
日大アメフト部が起こした今回の事件の経緯
まずこの事件の危機対応について考えてみる前に事件のあらましと経緯について振り返ってみたいと思います。
5月6日(日)
・事件の発生:日大と関学大との間で調布アミノバイタルフィールド(東京)において定期戦が行われた際、日大の選手が常識を外れた危険なタックルなどラフプレイを連発
・試合後、ラフプレーについて日大内田監督は「オレがやらせていることは分かっている。何か聞かれたら、監督の指示だと言え」「あれぐらいやっていかないと勝てない。やらせている私の責任」などと発言していたという。
5月9日(水)
・関東学生フットボール連盟は理事会を開いて協議し日大の選手が度を超したラフプレーをしたとして、追加的な処分が決まるまで、当該選手の対外試合の出場停止処分、内田正人監督を厳重注意とした。
5月10日(木)
・関東学生フットボール連盟は、前日の当該選手の対外試合の出場を禁止する処分を公表
・関学大から日大に対して抗議文提出
5月11日(金)
・日大のコーチから「選手を連れて謝罪にいきたい」旨の連絡が関学大に入るが、関学は「文書で回答してほしい」と断る。
5月12日(土)
・関学大が会見を開き、抗議文(10日付)を送付したことを発表。誠意ある回答がなければ、定期戦を拒否する考えを示した。
・日大のコーチと選手が関学大を訪れるが、関学首脳陣には会えず。
・日大は関大と対戦し、48―21で勝利、この状況を逐次ツイッターでツイートし批判を受ける。
5月14日(月)
・法政大、東京大、立教大学が連名で日大との試合中止を訴える文書を関東アメフト連盟に送ったことから、連盟が春期オープン戦の3試合を中止すると発表
・スポーツ庁の鈴木大地長官は「大変危険なプレー。怒っている」と定例会見で話した。
5月15日(火)
・関学大は10日に送付した抗議文に対する日大の回答を受け取る。
日大の回答では故意によるプレーではないとし「試合の中で残念ながら偶発的に起こってしまったアクシデントだと認識している」との認識
・日本アメリカンフットボール協会の会長がスポーツ庁を訪れ、報道陣に対し「ありえないプレーだ」としたうえで、試合を主催した関東学生連盟の調査を徹底させ、再発防止に努める考えを示した。
・日大は関学大の抗議文に対する回答を文書で提出
5月17日(木)
・関学大の鳥内秀晃監督らが、兵庫県西宮市の大学施設で記者会見
反則行為への見解と謝罪を求める抗議文(10日付)に対する日大の回答に対して「疑問、疑念を解消できておらず、誠意のある回答とは判断しかねる」との見解を表明し、日大側の24日までの再回答を踏まえて対応を検討する方針を示した。
5月18日(金)
・この日までに他大学も日大戦を取りやめ、日大の春の試合が全て中止
5月19日
・日大の内田正人監督は、19日、午後2時すぎに加藤直人部長とともに、兵庫県西宮市内の施設を訪れ、けがをさせた選手と父親、それに関西学院大の鳥内秀明監督などに、けがをさせた選手などに直接謝罪
事件後はじめてマスコミのインタビューに回答
「一連の問題はすべて私に責任があり、監督を辞任します」と述べた。反則行為の指示については「文書で答える」として明言を避けた。
・内田正人監督は19日付で監督を辞任
5月22日(火)
・日大のラフプレーを行った選手が単独で記者会見
監督の指示でラフプレーを行ったと発言
日大アメフト部監督の対応のどこが間違っていたのか
事件の善悪は別として、日大アメフト部、監督の事件発覚後の対応はどこが間違っていたのでしょう
事件発生後、問題が発覚しても日大側は何も対応を取らず
試合後の内田監督の発言などから、当初は何ら問題になるとは考えておらず、それどころかラフプレイを容認するような発言をしていることから、今回の事件が問題になるとは考えていなかった様子がうかがえます。
それでもその後、これはまずい、何らかの対処(危機対処)をしなければいけないと判断すべき時点が2回あります。
まずは、5月10日に関東学生フットボール連盟は、危険プレーを行った当該選手の対外試合の出場を禁止する処分を公表、また関学大から日大に対して抗議文が提出された時点です。
この時点で、危機管理(初動対処)やリスクマネジメントを発動していたなら、これほどまでに大きな問題にならなかった可能性があります。
2回目のチャンスは5月17日に関学大がマスコミを集めて記者会見をした時点
この時点でも、かなり後手に回っていましたが、それでもちゃんとした対応をしていたら、ある程度問題はおさまった可能性があります。
しかし、5月17日に至っても日大や内田監督には危機感が乏しかった、あるいは、どういう対応をしていいのか分からなかったのかもしれません
SNSやマスコミで事件が報道され、炎上していてもほとんど放置状態でした。
最初に責任者がちゃんと謝罪していない
危機管理の基本として、不祥事が起きた場合、まずはその組織のトップ、責任者がちゃんと謝罪するという姿勢が大切です。
過去の企業の不祥事でも、社長が出てこないで担当部長や、担当者が出てきて謝罪するも、社長が出てこないことで炎上した例はたくさんあります。
それなのに今回の場合
コーチと当該選手が関学大に謝りに行こうとしただけで監督は全く表に出て来ていません。
と言うよりは、事情はともあれ19日に関学大に謝罪に行くまで、全く顔を見せず、雲隠れしているとまで言われていました。
日大としても、ホームページでまるで他人事のようにお詫びを載せているだけで、発表もなく、記者会見なども行われていません。
これらの態度が、ほおっかむりしようとしたのか、ほとぼりが冷めるのを待っているかのように世の中から見られ、益々炎上に火を付けたようなものでした。
情報を隠蔽しようとしたり、情報発信をしなかった
日大の動きを見ていると、関係者に箝口令を引いて情報を出さないようにしているように見えました。
危機管理の基本として、情報を統制して、情報発信する窓口を一本化するということは大切なのですが
情報発信する窓口はおろか、何も情報を出さない姿勢は、明らかに、世論を炎上させる方向に向かわせました。
不祥事が起きた場合は、まずは正確な情報をなるべく早く、窓口を一本化した上で発信し続ける必要があります。
ネットやSNSが発達している現代において、情報を隠蔽することは不可能です。
正しい情報を発信しなかったり、情報を隠そうとしても、あちこちから情報が漏れてしまいます。
これは最悪の事態です。
情報の整理に時間がかかったり、なかなか情報が入らないこともよくあるのですが
本来情報を発信すべきところから情報が出てこないで、あらぬ所から新しい事実などが先に漏れてしまうと
情報の隠蔽とか、本当はもっと悪いことをしていたのでは無いかなど余計な疑惑を持たれて
マスコミや世論に悪い印象を与え、ますます当事者が不利な状態に追い込まれてしまいます。
日大は危機管理をどうするべきだったのか
今後事件はどのように発展するのか予断を許さない状況ですが、初動対応において日大は危機管理(リスクマネジメント)をどのように対処するべきだったのでしょう。
早い時期における監督の謝罪と記者会見
少なくとも17日の関学大の記者会見までに、日大監督が記者会見を行い明確に謝罪しておけば、今回の事件もここまで大きくなることはなく
世間からのバッシングも酷くなることは無かったかもしれません。
所が日大の監督は関学大や被害者に謝罪に行ったついでにマスコミの取材に応じただけで、明確な謝罪の言葉もなく
中途半端な受け答えで、火に油を注ぐような結果になってしまっています。
正確な情報を早急に発信
今回の日大は、全くと言って良いほど情報を発信、開示しておらず、後手後手に回っています。
窓口を一本化して、なるべく早く正直に、情報発信していく必要がありました。
確かに
「相手のQBを怪我させるように監督が指示しました」
ってハッキリ言える訳はないとは思いますが
せめて、
「誤解させるような言い方で当該選手に監督が指示を出していました。責任は監督にあります」ぐらいのことをちゃんとある程度の経緯を含めて説明していれば
ここまで世論が激高することも無かったと思います。
日大の対応が後手後手?と言うよりは何も対応しないまま
あちこちから情報が漏れ伝わるという最悪の事態に陥っています。
騒ぎになった以上、ごまかそうとしても無駄ですから、包み隠さず情報発信しておいた方が結果的に、騒ぎは収まることになったはずです。
危機管理において、ここまで炎上してしまったらごまかそうとしたり、うやむやにしようと思っても不可能です。真摯に、本当の事を適切に情報発信していくしかありません。
危機管理チームを作る
中小企業や、個人だとそうもいかないでしょうが、日大ほどの組織であれば、危機管理チームを作ることは可能だったと思います。
危機管理や法律の専門家なども含めて
情報の分析や収集、マスコミ対応
あるいは今後の対応方針の検討など、組織を作って対応すればもう少しましな対応になったはずです。
つまらない話ですが、謝罪に行くときのピンクのネクタイや、後ろ手を組んでの横柄な取材態度なども事前にチェックしてもらえたかもしれません
5.23追記
5月22日に、ラフプレイをした選手が単独記者会見を行いました。
危機管理の観点から見るとほぼ完璧な対応だったと思います。
余計なことは言わず、事実を隠さず淡々と述べ、言い訳せずにしっかり謝罪する。
刑事事件になるかどうかは別として、以後彼のことをことさら批判する人はいなくなると思います。
日大という大きな組織が、全く危機管理が出来ていないのとは対照的な対応でした。
まとめ
今回の事件の真相や、善悪を判断するつもりはありませんが、日大という大きな組織があまりにもお粗末な危機対応しているのを見て残念に思いました。
同じ事は、政府のモリカケ問題に対する対応にも言えると思います。
何にも問題無いのならしっかり危機対応をして、正直に情報を発信すれば良いのに
ことさら、
「何も間違った事してないんだから、余計なこと言う必要は無い」
「なんとなくうやむやにしてやりすごそう」
という姿勢が見え見えで、
あるいは、それこそ何かもっと凄いことを隠しているのではないかなどという疑心暗鬼まで生まれています。
結局事を大きく炎上させてしまっているのは日大のアメフトの場合と同じように感じられます。
政府なんだし、これだけ大きな問題になっているんだからきっと、政府の中で危機管理チームを作って対処してるのかな・・・
とはとても思えない場当たり的な対応を繰り返しているように見えるのは私だけでしょうか
組織が起こした不祥事、危機管理、初動対処を間違えるとその組織の存在さえ脅かすような事態に発展する可能性もあります。
問題が起きた場合は、うやむやにごまかそうとするのではなく、しっかりセオリーに則って正しく対応する必要があります。
コメント